現代の日本企業は、深刻な人材不足と高まる離職率という二重の課題に直面しています。少子高齢化が進む今、人材の確保は簡単ではありません。だからこそ、今働いている従業員に「辞めずに働き続けてもらうこと」が、ますます大切になってきています。
この記事では、最新の離職データや企業リスク、そして具体的な離職防止策12選と成功事例を網羅的に解説します。最新データと成功事例から、すぐに使える具体的な対策を見つけましょう。

監修者:岩城成弘(いわしろ あきひろ)
スターバックスコーヒーやウォルト・ディズニー・ジャパンでの豊富な実務経験を活かし、日本全国の企業や教育機関などで、ホスピタリティ研修を開催している。特に、ディズニー流の「おもてなし」を基軸にした、企業のブランド価値を高める研修が人気。実践的かつ成果につながる指導が、多くの企業から高い評価を受けている。
離職する理由と傾向

日本の離職率は近年増加傾向にあり、企業の持続的成長に影響を及ぼしています。厚生労働省「令和5年雇用動向調査」によると、令和4年の常用労働者の離職率は15.0%。特に宿泊業・飲食サービス業など特定の業界で高く、新規学卒者の3年以内離職率は大卒34.9%、高卒38.4%に達するなど、未来を担う若手人材の定着が大きな課題となっています。
同調査によると、契約期間満了以外の理由では、男女ともに上位3位は以下の通りです。
1位 | 労働時間、休日等の労働条件が悪かった |
2位 | 職場の人間関係が好ましくなかった |
3位 | 給料等収入が少なかった |
参照:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」
近年では、コロナ禍を経て働き方やワークライフバランスへの意識が高まり、価値観が多様化しています。特にZ世代は自身の成長や社会貢献を実感できる仕事、そして迅速で具体的な評価や助言を重視する傾向が強く、企業文化とのミスマッチも離職の一因です。メンタルヘルス問題の増加や転職市場の活性化も離職に拍車をかけています。
離職が多い会社のリスク

新たな人材を採用するための費用は、1人当たり平均約100万円で、さらに新人研修費用や引継ぎ費用なども発生します。さらに見えにくい間接的なコストとして、生産性の低下、既存従業員の業務負荷増大によるチームワークの悪化、重要なノウハウの流出、そして新規事業展開の遅れや顧客満足度低下といった機会損失が生じます。
これらを総計すると、1人の離職による企業への総損失は年収の2~3倍とも言われ、特に早期離職の場合、約800万円の損失が生じると試算されています。これらの金銭的・非金銭的な損失を被る前に、企業は効果的な離職防止策を講じることが重要です。
離職防止の具体策12選

離職防止策は、ただ一つの対策をすれば解決するわけではありません。社員一人ひとりの「こんな働き方がしたい」という色々な希望に合わせた対策を計画して、続けていくことが大切です。経営層から現場まで一丸となり、効果を測定しながら改善を重ねることで、持続的に人が定着する強い組織が生まれます。
1.労働条件・職場環境の見直し
労働時間の適正化や有給取得率向上は、ワークライフバランスを重視する姿勢を示す重要な一歩です。働きやすいオフィス環境を整え、市場水準に合わせた給与・待遇の見直しや成果に応じた昇給制度を導入することで、従業員のエンゲージメントと長期定着に繋がります。これらの取り組みは、社員の満足度を直接的に高めるでしょう。
2.評価制度の透明化・公正化
評価制度は、基準を明確にし、全社員に周知することが大切です。多角的な評価と丁寧なフィードバックを行うことで公平性を高め、社員が頑張りを正当に評価される実感が得られます。これにより、不満解消とやる気維持に繋がり、社員の信頼とモチベーションが向上します。公正な制度は組織の活性化にも繋がります。
3.従業員ニーズに応じた福利厚生充実
従業員の多様なニーズに応えるため、福利厚生の充実は欠かせません。心身の健康サポートや育児・介護支援を充実させることで、ライフスタイルの変化があっても社員が安心して長く働ける環境が整い、定着率向上に直結します。
4.1on1面談・メンター制度導入
定期的な1on1面談やメンター制度の導入は、個別サポートを強化し、部下の悩みやキャリアに寄り添う有効な手段です。特に新入社員には精神的な支えとなり、早期離職を防ぐことに繋がります。これらの密なコミュニケーションは、社員の孤立を防ぎ、職場への安心感を育む上で極めて重要です。
5.研修・スキルアップ機会の提供
社員の成長実感は、職場への定着に貢献します。役職に合わせた研修や、外部研修、資格取得支援など、学ぶ機会を提供しましょう。主体的な学びと多様なキャリア支援が社員の市場価値を高め、会社への貢献意欲を引き出します。
6.業務負荷の適正化・効率化
過度な業務負荷は、離職に繋がりかねません。そのため、ムダな業務を減らし、ITツールを活用して定型業務を自動化することで、社員がより重要な仕事に集中できる環境を作りましょう。適切な人員配置で特定の社員に負担が集中しないようにし、健康的で働きやすい状態を目指すことは、社員のストレス軽減にも繋がります。
7.管理職のマネジメント力強化
管理職のマネジメント力は、部下のやる気と定着に大きく影響します。リーダーシップや部下指導のスキルを高める研修を行い、ハラスメント防止教育も徹底しましょう。安心して働ける職場環境の基盤作りは重要です。管理職自身のメンタルケアも忘れず、組織全体の離職防止に繋げましょう。
8.心理的安全性の確保
失敗を恐れず挑戦できる環境の組織は、定着率が高いです。失敗を学びとし、多様な意見を歓迎する文化を育てましょう。誰でも自由に発言し、話し合える機会を増やすことが大切です。これにより、新しいアイデアが生まれ、社員の貢献意欲と会社への愛着が高まります。
9.従業員満足度調査・改善
社員の本音を聞き、会社の改善に反映させる従業員満足度調査は、離職防止の土台です。定期的な満足度調査で現状を把握し、その結果を基に具体的な改善策を実行しましょう。「自分の声が届いている」と感じることで、会社への信頼が深まり、もっと貢献したいという気持ちが高まります。
10.AI・ツールによる離職予兆検知
AIなどのHRテクノロジーを活用すると、社員の勤怠や評価、社内行動データなどから離職のサインを読み取れます。こうした分析機能は、専門のHRツールやサービスとして導入可能です。リスクの高い社員を特定し、データに基づき人事や上司が素早く個別ケアを行うことで、効率的に離職を防ぎ、大切な人材の流出を阻止できます。
11.リモートワーク・フレックス制度
テレワークやフレックスタイム制を設け、通勤負担を減らし、ワークライフバランスを良くすることも効果的です。柔軟な勤務時間は、社員が自分のリズムで効率的に働ける環境を提供します。副業・兼業支援で学びや自己実現の機会も広げ、多様な働き方を尊重することで、社員の自律性と定着に繋がります。
12.専門的な外部研修・コンサルティング活用
自社だけでは難しい課題や、専門的な知識が必要な時は、外部の研修会社やコンサルタントに頼るのも有効です。会社の課題を客観的に分析し、本当の原因を見つけます。専門的な研修や継続的なサポートを受けることで、社員の成長や組織の変化を着実に進められます。外部の力を上手に使うことで、離職防止への投資効果を最大限に引き出しましょう。
離職防止を成功に導いた企業の成功事例

離職防止策の重要性は理解できても、いざ自社で導入するとなると、具体的なイメージが湧きにくいと感じるかもしれません。
そこで、実際に離職防止に成功した企業の事例を見ることで、貴社に合った具体的な施策のヒントが見つかります。 業界や規模は様々ですが、各社がどのような工夫をし、どんな結果を出したのかを一覧表で分かりやすくご紹介します。
企業名 | 課題 | 主な施策内容 | 効果 |
株式会社鳥貴族 | 若手人材の定着 | 労働条件・福利厚生改善(残業規制、休日増、年収引き上げ等) | 飲食業界平均を下回る離職率、若手定着率大幅向上 |
伊藤忠商事株式会社 | 女性総合職の早期離職 | キャリア形成支援、働き方改革、制度拡充 | 女性総合職の定着率向上 |
カネテツデリカフーズ株式会社 | 入社3年以内離職率50%と高水準 | 外部コミュニケーション研修、新入社員フォローアップ | 離職率10%以下に低下、若手定着率改善 |
株式会社レオパレス21 | 業界平均より高い離職率、若手モチベーション | 外部研修(管理職・営業力)、人事評価制度・労働時間見直し | 離職率大幅改善、モチベーション・満足度向上 |
よくある離職の悩みと対策
離職対策では、目の前の問題だけでなくなぜ離職が起きるのか、その根本原因を理解することが大切です。一時しのぎの対策ではなく、長く効果を発揮する対策を立てましょう。ここでは、よくある離職の悩みと、その解決策をご紹介します。
若手がすぐに辞めてしまう
若手が早期に離職する主な原因は、入社後のギャップや成長実感の不足、人間関係の構築難です。こうした悩みに対しては、充実した新人研修で基礎スキルと適応力を高め、メンター制度や定期的なフォロー面談で個別サポートを強化することが有効です。早期の手厚い支援は、エンゲージメントを高めます。
優秀な人ほど辞めていく
優秀な人材の離職は、不明確なキャリア展望や成長機会の不足、他社からの引き抜きが主な原因です。これを防ぐには、個別キャリア面談で将来像を共有し、スキルアップ研修や昇進・昇格機会の拡大により成長を支援することが大切です。これにより、重要ポジションの後継者育成と組織力強化を同時に図り、業績低迷のリスクを回避できます。
中堅層の離職でマネジメントできる人材がいない
中堅層の離職は、マネジメント負荷の増大や管理職への不安、スキル不足が主な原因です。対策としては、管理職候補者研修やリーダーシップ研修でマネジメント能力を向上させ、メンタルヘルス支援で精神的な負担を軽減するのが良いでしょう。これにより、マネジメント層の厚みを増やし、組織の持続的な成長を実現できます。
離職防止策を選定する際の注意点
離職防止策を選ぶ際は、場当たり的ではなく、根本原因を分析した体系的なアプローチが重要です。ただし、自社内での解決には限界があるため、外部の専門機関と連携することも効果的です。
また、施策は対象者のニーズに合わせて設計し、導入後は効果測定と継続的な改善を行うことで、投資対効果を最大化し、持続的な成果を出すこともできるでしょう。
経営の最重要課題として離職防止に取り組もう
人材不足が深刻化する現代では、優秀な人材確保は企業の競争力を左右する最重要課題です。離職防止は、単なるコスト削減だけでなく、生産性向上や企業価値を高める中長期的な投資となります。
離職防止策の成功には、経営トップの強いコミットメントと全社的な継続的取り組みが不可欠です。従業員の声に耳を傾け、変化に対応した施策を導入し、効果測定と改善を繰り返すことで持続可能な組織が実現します。
MCSCは、離職防止に繋がる研修やコンサルティングで、「長く働きたい」と思える組織づくりをサポートします。ぜひご相談ください。