監修:岩城成弘
※本記事は、研修・コミュニケーションや組織運営の観点から一般的な情報を整理したものであり、個別の診断・治療・看護判断・法的判断を提供するものではありません。具体的な対応は、本人の状態、医療・ケアチームの専門的評価、各施設の方針、必要に応じた専門家の助言に基づいてご判断ください。

看護師という職業は、日々の多忙な業務をこなしながら患者への理解を深め、患者さんとの信頼関係を作る大切な役割を担っています。また、医療チーム内でのコミュニケーションは、看護の質を大きく左右する要素です。
本記事では、看護師に必要なコミュニケーションスキルや、看護の現場で生きるホスピタリティについて解説します。
ホスピタリティは、患者さんに笑顔を求めたり、職員が無理をして尽くしたりすることではありません。相手の不安や言葉にならない思いに気づき、本人の意思や安全を尊重して、チームでできる対応を考えることです。医療上の判断と、接遇・対話を学ぶ研修の役割を分けて考えます。
明日の申し送りから始める、ホスピタリティの実践
患者さんやご家族から受けた相談について、相手が何を心配しているのか、何を説明済みなのか、誰が次に対応するのかを短く共有してみましょう。個人情報の取扱いと施設のルールを守り、医療的な説明や判断は担当する専門職につなぎます。相手を想う気持ちを、職員間で受け継げる行動に変えることが大切です。
2026年の医療接遇で重要な「丁寧さ」と「職員を守る線引き」
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策は事業主に求められる雇用管理上の措置となりました。厚生労働省も、現場対応を個人任せにせず、組織として方針・相談体制・対応手順を整える必要性を示しています。医療現場でも、患者さんに丁寧に向き合う「医療接遇」と、職員を守るための「組織としての線引き」を混同しないことが重要です。
- 正当な不安・要望:傾聴し、できること・できないことを分かりやすく説明する
- 説明不足や認識のずれ:患者さんの理解度を確認し、必要に応じて担当者間で情報をそろえる
- 暴言・威圧・執拗な要求:一人で抱えず、院内ルールに沿って責任者や組織対応へ切り替える
「すべてを受け入れること」がホスピタリティではありません。患者さんの安心と職員の安全を両立させることが、これからの医療接遇では欠かせません。カスタマーハラスメントへの具体的な組織対応は、「クリニックのカスハラ対策」で詳しく整理しています。
なぜ看護師にコミュニケーションスキルが重要なのか

看護の現場でコミュニケーションが重要視される理由は、大きく分けて「患者との信頼関係構築」と「医療チームとの連携強化」の2点が挙げられます。
看護師のコミュニケーションスキルは、単なる情報伝達の手段ではなく、患者さんのQOL向上や医療の質向上に大きく関わることを理解しておきましょう。
患者との信頼関係構築
看護師のコミュニケーションは、患者に安心感を与えながら信頼関係を築くために重要です。信頼関係が構築されると、患者さんを尊重したコミュニケーションが取りやすくなり、患者さんも症状の変化や心境を正直に伝えやすくなります。
患者さんとの信頼関係が築けている場合、小さな変化も見逃さずに適切なケアの提供やセルフケア指導を行えるようになります。逆にコミュニケーション不足は、患者さんの異常に気付きづらく、不利益につながる恐れがあるため注意しましょう。
医療チームとの連携強化
コミュニケーションスキルは、医療チームとの連携を強化する場面で不可欠なスキルです。同僚や医師、多職種との連携をスムーズにすることで、患者さんへの質の高い医療を提供できるようになります。
多忙な業務の中で迅速かつ正確な情報共有をできることは、正確で素早く情報を伝達し、医療事故のリスクを下げるのにも効果的です。また、円滑なコミュニケーションは、仕事のストレス軽減やチームワーク強化にもつながります。チーム間での情報共有を円滑に進めるには、要点を簡潔に伝えることを意識しましょう。
信頼を深めるコミュニケーションのポイント

患者さんとの信頼関係を深めるためには、相手の話をよく聞き、非言語的なコミュニケーションにも気を配ることが大切です。ここでは、患者さんとの信頼関係を深めるために重要なコミュニケーションのコツについて解説します。
会話の基本は「傾聴」と「共感」
患者さんとのコミュニケーションにおいて最も大切なスキルの一つが傾聴です。傾聴とは、相手の話に関心を持ち、共感的な姿勢で注意深く「聞く」ことを指します。
会話をする際には、相手の話を遮らずに最後まで聞き、相手の話や感情を否定しないこと、また自分の考えを押し付けない意識を持つことが重要です。これにより、「自分の話が大切にされている」という感覚を患者さんに持ってもらいやすくなります。
また、単に話を聞くだけでなく、相手の気持ちや状況を理解しようと努める「共感」も重要です。感情に寄り添う姿勢を示すことで、患者さんは「自分の話を大切に扱ってもらえている」と感じやすくなり、不安や希望を伝えやすくなります。
客観的な視点と感情のコントロール
医療チームでのコミュニケーションでは、客観的な視点から意見することは重要です。感情や個人的な価値観に左右されず、公正な立場から情報や意見を伝えたり受け取ったりすることを意識しましょう。患者の訴えや状態を客観的に捉えながらアセスメントすることで、チーム内での建設的な対話が可能になります。
看護師は、人を相手にする仕事であるため、焦りや怒りといった負の感情に揺れ動いてしまうこともあります。しかし、そうした感情をなるべく表に出さないようにコントロールすることも大切です。自分の感情に対しても、客観的に捉え、感情が高ぶる場面こそ冷静にコミュニケーションを取るように意識しましょう。
安心感を与える非言語的コミュニケーション
コミュニケーションは言葉だけでなく、態度や表情からも相手の感情や考えを読み取ることができます。表情、視線、声のトーン、姿勢など、言葉以外の表現を通じて意思や感情を伝える非言語的コミュニケーションは、時には言葉以上に相手の心を動かすこともあります。
患者さんに安心感を与えるためには、穏やかな表情、視線の高さ、声のトーン、適度な頷きや相槌など、非言語コミュニケーションの工夫が大切です。ただし、距離感が近すぎたり、反応が大きすぎたりすると負担に感じる方もいます。相手の反応を見ながら調整することが重要です。特に受付・外来で強い不満や威圧が生じた場合は、接遇だけで解決しようとせず、「クリニックのカスハラ対策」で示している組織対応へ切り替えます。
チーム連携を強化するコミュニケーションのポイント

多忙な看護業務の中でより良い看護を提供するためには、効率的にコミュニケーションを取り、迅速かつ正確な情報共有が不可欠です。ここでは、チーム連携に重要なコミュニケーションのポイントを解説します。
効率的な情報伝達
要件を簡潔で分かりやすく相手に伝える手法として、PREP法が有効です。PREP法は以下の順番で情報を伝える方法のことです。
- 結論(Point)
- 理由(Reason)
- 具体例(Example)
- 結論(Point)
上記の順番で情報を伝達することで、スムーズに必要な情報を伝えられます。
また、チーム間での情報共有では、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識して報告・連絡・相談(報連相)を行うことが非常に重要です。5W1Hを整理して伝えることで、情報の伝達漏れや認識のズレを防ぐことができ、コミュニケーションが苦手な方も説明しやすくなります。
感情に寄り添うNURSE(ナース)
NURSEは、がん患者やターミナルケアの現場で注目される、患者や家族の意思や感情を理解するための専門的なコミュニケーション手法です。
NURSEを意識したコミュニケーションをとることで、心の奥にある感情や思考をうまく引き出せます。
- N: Naming(感情の言語化):患者が抱える感情を具体的な形容詞で命名する。
- U: Understand(理解する):その感情に対して理解できることを示す。
- R: Respect(相手に敬意を示す):患者の姿勢や人格に敬意を示す。
- S: Support(支持する):患者を支援したいという意思を伝える。
- E: Explore(掘り下げる):感情に焦点を当て、質問しながらさらに情報を収集していく。
看護の質を高めるホスピタリティ

患者さんの心に寄り添う看護には、ホスピタリティの概念が重要です。ホスピタリティの概念は、日本では一般的に「顧客に対する態度」と捉えられていますが、病院での患者さんへの対応においても重要です。
病院に組織理念としてホスピタリティが導入された際、看護師がその理念を実践に生かすまでには、大きく3つの段階を経ることが研究で示されています。
- 個々の看護師がホスピタリティの組織理念を認識した段階(1段階)
導入当初はホスピタリティの意味を理解しておらず、理念に無関心な状態から、看護部の普及努力により、ホスピタリティの意味を知る段階です。 - その組織にとってのホスピタリティを理解した看護師による実践(2段階)
ホスピタリティを概ね理解し、患者の嗜好や生活習慣を取り入れたケアの実践など、患者中心のケアを実践する段階です。この段階で、これまでの接遇が不適切であったことに気付かされます。 - 組織理念であるホスピタリティの理解が深まり、患者との相互作用により看護師が変化を認識した段階(3段階)
ホスピタリティの実践が行動レベルとして定着し、相手を心からもてなす気持ちのこもった対応への移行が見られます。患者や家族から良い評価を受けることで、看護師自身に達成感をもたらし、ホスピタリティの実践が自己や他者の評価の視点となるまで定着します。
看護にホスピタリティを導入するためには、ノウハウを身につけるだけでなく、職場の業務改善も重要です。あまりに忙しい職場環境では、ゆっくりと会話をすることすら難しくなります。まずは環境を整えて、そのうえでホスピタリティ教育を進めていきましょう。
看護現場でホスピタリティを定着させる3つの確認点
- 傾聴を個人技にしない:患者さんの話を聴く姿勢を、部署内で共通の行動として言語化します。傾聴の練習方法は「傾聴力を高めるトレーニング5選」も参考にしてください。
- 情報共有の型をそろえる:患者対応の質は、医師・看護師・事務職など職種間の連携にも左右されます。伝達漏れや認識のずれを減らす考え方は「コミュニケーションミスの原因と解決策」で整理しています。
- 余裕をつくる:接遇やホスピタリティを求めるだけでなく、休憩、役割分担、相談しやすさなど、丁寧な対応を実践できる職場環境も同時に整えます。患者・家族からの暴言や威圧など、接遇だけでは解決できない場面への組織対応は、「クリニックのカスハラ対策」も参考にしてください。看護職が働き続けられる職場環境づくりは、「看護師の離職防止」でも詳しく整理しています。
医療接遇・看護コミュニケーションの実践チェックリスト
| 場面 | 確認する行動 |
|---|---|
| 最初の声かけ | 患者さんの名前・用件を確認し、今から何をするか短く説明する |
| 傾聴 | 途中で結論を急がず、困っていることや不安を一度言葉にして確認する |
| 説明 | 専門用語を避け、理解できたかを一方的な「分かりましたか?」だけで終わらせない |
| 多職種連携 | 誰が・何を・いつまでに対応するかを明確にし、曖昧な伝言を減らす |
| 強い不満 | 一人で抱え込まず、院内ルールに沿って責任者へ引き継ぐ |
| 振り返り | 患者対応の失敗を個人の接遇だけで片づけず、業務負荷や情報共有も確認する |
医療接遇は「丁寧な言葉遣い」だけではありません。患者さんの不安を減らす説明、チーム内の正確な情報共有、職員を守る線引きまで含めて設計すると、現場で再現しやすくなります。
看護のホスピタリティ改善を成果につなげる4つの指標
ホスピタリティ研修の成果を「受講者が満足したか」だけで判断すると、患者さんや職員にどんな変化が起きたかが見えません。まずは部署の課題に合う指標を選び、研修前と研修後を同じ条件で確認しましょう。
| 現場で改善したい課題 | 確認する行動・指標の例 | 次に見直すこと |
|---|---|---|
| 患者さんに説明が伝わりにくい | 説明後に患者さんの理解を確認した割合、説明に関する再質問の内容 | 専門用語、説明の順番、確認方法 |
| 不安や要望の聞き漏れ | 申し送り前に患者さんの気がかりを確認した割合、相談内容の記録 | 最初の声かけ、傾聴時間の確保 |
| 部署内の情報共有のずれ | 引き継ぎ時の確認漏れ・差し戻し件数、担当と期限の明確化 | 報告の型、役割分担、責任者への連絡 |
| 職員に負担が集中する | 患者対応の相談件数、責任者への適切なエスカレーション、職員の負担感 | 個人対応の限界、相談窓口、組織ルール |
数値は一つで良し悪しを断定できません。例えば相談件数の増加は、問題の悪化ではなく「相談しやすくなった」結果の可能性もあります。月ごとに数値と現場の事例を併せて確認し、患者満足・再来院・紹介などの経営指標との関係も慎重に振り返りましょう。
患者対応の改善と看護職の働きやすさを両立させたい場合は「看護師の離職防止」を、職種間の指示・報告の行き違いを減らしたい場合は「看護補助者との連携」も参考になります。MCSCへの講演・研修相談では、課題だけでなく「どの行動や指標を変えたいか」から内容を整理できます。
よくある質問
看護におけるホスピタリティと接遇の違いは何ですか?
接遇は言葉遣い、表情、身だしなみ、説明などの具体的な行動として表れます。ホスピタリティは、その行動の前提となる「相手の状況を理解し、安心や信頼につながる関わりを考える姿勢」と捉えると実践しやすくなります。
忙しい看護現場でもホスピタリティは実践できますか?
すべての患者さんと長時間会話する必要はありません。短い声かけ、説明前の確認、相手の話を遮らない、次の行動を分かりやすく伝えるなど、小さな行動から始められます。一方で、慢性的に余裕がない場合は、個人の努力だけでなく業務や役割分担の見直しも必要です。
ホスピタリティ研修は一度受ければ定着しますか?
一度の研修だけで定着するとは限りません。事例検討、短いロールプレイ、振り返り、管理者からのフィードバックなどを組み合わせ、現場で繰り返し確認する方が行動につながりやすくなります。
看護でのコミュニケーションではホスピタリティが重要
看護師にとってコミュニケーションは、患者さんとの信頼関係構築、医療の質向上に不可欠なスキルです。傾聴や共感といった基本的な姿勢、そしてPREP法やNURSEなどの具体的な技法を意識的に取り入れ、トレーニングによって伸ばすことを意識してみましょう。
とくに重要なのは、ホスピタリティの概念です。単なる医療サービスとして提供するのではなく、相手の状況を理解し、安心や信頼につながる関わりを考える姿勢を、日々の看護やチーム連携の中で実践していくことが大切です。
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岩城成弘への講演・研修相談では、医療・介護現場のコミュニケーション、ホスピタリティ、職場づくりについて、現場の課題や対象者に合わせて内容を整理します。特に「患者さんへの説明が人によってばらつく」「傾聴や接遇を個人技にしたくない」「忙しさで丁寧な対応が続かない」「患者・家族対応の負担が職員の定着に影響している」といった段階から、接遇・情報共有・管理職支援を一体で整理できます。テーマや人数がまだ決まっていなくても問題ありません。
患者対応だけでなく、職員の働きやすさやチーム連携まで含めて見直したい場合は、看護師の離職防止、看護補助者との連携、クリニックのカスハラ対策もあわせて確認すると、接遇だけで終わらない改善設計につなげやすくなります。

