監修:岩城成弘
日本企業では、人材確保と、従業員が働き続けられる職場づくりの両立が重要な課題になっています。少子高齢化が進む今、人材の確保は簡単ではありません。だからこそ、今働いている従業員に「辞めずに働き続けてもらうこと」が、ますます大切になってきています。
この記事では、厚生労働省が公表する雇用動向調査などを参照しながら、離職防止を考える際の具体策12項目を整理します。施策の効果は企業・職場によって異なるため、自社の実態を確認しながら活用してください。

監修者:岩城成弘(いわしろ あきひろ)
スターバックスコーヒーやウォルト・ディズニー・ジャパンでの豊富な実務経験を活かし、日本全国の企業や教育機関などで、ホスピタリティ研修を開催している。特に、ディズニー流の「おもてなし」を基軸にした、企業のブランド価値を高める研修が人気。実践的かつ成果につながる指導が、多くの企業から高い評価を受けている。
離職する理由と傾向

厚生労働省の「令和7(2025)年雇用動向調査」(2026年8月31日公表)では、常用労働者の離職率は13.7%で、前年より0.5ポイント低下しました。離職率は産業や就業形態によって異なるため、全産業の数字だけで自社の状況を判断しないことが大切です。一方、厚生労働省が2026年10月23日に公表した「新規学卒就職者の離職状況(2023年3月卒業者)」では、就職後3年以内の離職率は大卒31.2%、高卒36.9%でした。前年公表値(2022年3月卒業者の大卒33.8%、高卒37.9%)とは対象卒業年が異なるため、比較するときは卒業年を明示してください。両調査は対象者や集計期間が異なり、同じ指標として直接比較できません。自社の定着課題は年代・職種・部署別に整理し、離職理由や就業環境も併せて確認しましょう。
離職理由を確認する際は、調査対象年を区別することが大切です。以下の参照資料は令和5(2023)年の雇用動向調査であり、上記の令和7(2025)年の離職率とは対象年が異なります。離職理由の傾向は性別や年齢、就業形態等によって異なるため、特定の項目を一律に「上位3位」とはせず、自社の退職理由や職場ごとの状況と併せて確認してください。
離職理由の参考:厚生労働省「令和5(2023)年雇用動向調査結果の概要」
退職理由を世代だけで決めつけることはできません。同じ職場でも、仕事の進め方、相談のしやすさ、評価の受け止め方など、困りごとは一人ひとり異なります。ホスピタリティの出発点は、相手を一括りにせず、まず本人の言葉を聴くことです。例えば面談の冒頭で「最近、仕事を進めるうえで困っていることはありますか。話しにくいことは無理に答えなくて大丈夫です」と伝え、本人の希望と業務上の課題を分けて整理します。相談内容の秘密保持や個人情報の取扱いに配慮し、健康上の相談は適切な産業保健・人事等の窓口につなげます。対話だけで離職を防げるとは限らないため、勤務負荷・処遇・育成制度も併せて確認してください。
離職が多い会社のリスク

新たな人材を採用する際の費用は、募集方法、職種、採用人数などによって異なります。これに加えて、新人教育や引継ぎ、欠員期間の対応にも費用や工数がかかる場合があります。さらに見えにくい間接的なコストとして、生産性の低下、既存従業員の業務負荷増大によるチームワークの悪化、重要なノウハウの流出、そして新規事業展開の遅れや顧客満足度低下といった機会損失が生じます。
離職に伴う負担を、出典のない「1人当たり○万円」という一律の金額で見積もることはできません。人事担当者が最初に整理したいのは、①求人広告・紹介手数料などの実支出、②採用担当者の作業時間、③新人育成・引継ぎの工数、④欠員を補うための追加対応費用です。同じ職種・期間で集計し、重複計上を避けて自社の実績から確認します。機会損失のように金額で測りにくい影響は別枠で記録し、推計を実績と混同しないことが大切です。明日できる一歩:直近の退職事例を個人が特定されない形で一つ振り返り、費用とともに「どの負担・相談のしにくさを先に改善できるか」を担当者同士で整理してください。研修など単独の施策で離職や採用費が必ず減るとは断定せず、導入後も職場の声と指標を確かめましょう。
離職防止の具体策12選

離職防止策は、ただ一つの対策をすれば解決するわけではありません。社員一人ひとりの「こんな働き方がしたい」という色々な希望に合わせた対策を計画して、続けていくことが大切です。経営層から現場まで一丸となり、効果を測定しながら改善を重ねることで、持続的に人が定着する強い組織が生まれます。看護・医療現場に特化した離職防止については、「看護師の離職防止|看護管理者が実践する7つの改善策」で、残業・休暇・新人教育・患者家族対応・看護管理者支援の視点から整理しています。
1.労働条件・職場環境の見直し
労働時間の適正化や休暇を取りやすい環境づくりは、従業員の働きやすさを考える出発点です。業務量や勤務体制、給与・待遇、評価制度についても現場の声を聴き、課題に応じて見直しましょう。取り組みの成果は職種や職場によって異なるため、実施後に休暇取得状況、負担感、離職理由などを確認し、改善を重ねることが大切です。
2.評価制度の透明化・公正化
評価制度は、基準を明確にし、全社員に周知することが大切です。多角的な評価と丁寧なフィードバックを行うことで公平性を高め、社員が頑張りを正当に評価される実感が得られます。これにより、不満の把握や納得感の向上につながり、社員の信頼や意欲を支えやすくなります。公正な制度は組織の活性化にも繋がります。
3.従業員ニーズに応じた福利厚生充実
従業員の多様なニーズに応えるため、福利厚生の充実は欠かせません。心身の健康サポートや育児・介護支援を充実させることで、ライフスタイルの変化があっても働き続けやすい環境づくりにつながり、定着支援の一要素になります。
4.1on1面談・メンター制度導入
1on1面談やメンター制度は、仕事の進め方や人間関係で困っていることを早めに相談できる機会の一つです。特に新入社員に対しては、相手の話を遮らずに聴き、本人が希望する支援を確認することから始めましょう。ただし、面談を実施しただけで早期離職を防げるわけではありません。業務負荷・労働条件・評価制度などの課題も分けて整理し、本人の同意や情報管理に配慮したうえで、相談のしやすさや定着状況を継続して確認することが大切です。
5.研修・スキルアップ機会の提供
社員の成長実感は、職場への定着に貢献します。役職に合わせた研修や、外部研修、資格取得支援など、学ぶ機会を提供しましょう。主体的な学びと多様なキャリア支援が社員の市場価値を高め、会社への貢献意欲を引き出します。
6.業務負荷の適正化・効率化
過度な業務負荷は、離職に繋がりかねません。そのため、ムダな業務を減らし、ITツールを活用して定型業務を自動化することで、社員がより重要な仕事に集中できる環境を作りましょう。適切な人員配置で特定の社員に負担が集中しないようにし、健康的で働きやすい状態を目指すことは、社員のストレス軽減にも繋がります。
7.管理職のマネジメント力強化
管理職のマネジメント力は、部下のやる気と定着に大きく影響します。リーダーシップや部下指導のスキルを高める研修を行い、ハラスメント防止教育も徹底しましょう。安心して働ける職場環境の基盤作りは重要です。管理職自身のメンタルケアも忘れず、組織全体の離職防止に繋げましょう。
8.心理的安全性の確保
失敗を責めず学びとして振り返れる環境は、職員が相談や意見共有をしやすくするうえで大切な条件の一つです。ただし、定着率への影響は給与・業務負荷・勤務条件などとも関係するため、単独の施策だけで改善したと断定せず、自社の状況を確かめましょう。失敗を学びとし、多様な意見を歓迎する文化を育てましょう。誰でも自由に発言し、話し合える機会を増やすことが大切です。これにより、新しいアイデアが生まれ、社員の貢献意欲と会社への愛着が高まります。
9.従業員満足度調査・改善
社員の本音を聞き、会社の改善に反映させる従業員満足度調査は、離職防止の土台です。定期的な満足度調査で現状を把握し、その結果を基に具体的な改善策を実行しましょう。「自分の声が届いている」と感じることで、会社への信頼が深まり、もっと貢献したいという気持ちが高まります。
10.AI・ツールによる離職予兆検知
勤怠や人事データの集計は、部署別の残業増加や休暇取得状況など、職場環境を見直す手がかりになる場合があります。ただし、AIが個人の退職意思を確実に予測できるわけではなく、分析だけで離職が防げるとも限りません。個人情報や評価情報を扱う場合は、利用目的、閲覧権限、必要性、本人への説明を確認し、個人を一方的に「離職予備軍」と決めつけない配慮が必要です。まずはプライバシーに配慮して部署単位の業務負荷や相談体制を点検し、現場の声と照らし合わせて改善策を考えましょう。
11.リモートワーク・フレックス制度
テレワークやフレックスタイム制を設け、通勤負担を減らし、ワークライフバランスを良くすることも効果的です。柔軟な勤務時間は、社員が自分のリズムで効率的に働ける環境を提供します。副業・兼業支援で学びや自己実現の機会も広げ、多様な働き方を尊重することで、社員の自律性と定着に繋がります。
12.専門的な外部研修・コンサルティング活用
自社だけでは課題の整理が難しい場合、外部の研修講師や専門家への相談も選択肢です。離職に関わる要因が勤務条件・処遇・人員配置にあるのか、職場の対話や育成にあるのかを分けて整理し、目的と評価方法を定めて依頼先を検討しましょう。岩城成弘の研修では、ホスピタリティを基盤とした傾聴、伝え方、関わり方、チーム内のコミュニケーションなど、現場で取り組める行動を扱います。離職率の改善など、研修だけでは保証できない成果を約束するものではありません。
離職防止施策を考える際の取り組み例

離職防止策の重要性は理解できても、いざ自社で導入するとなると、具体的なイメージが湧きにくいと感じるかもしれません。
そこで、離職防止施策を考える際に整理しやすい代表的な課題と取り組み例を一覧にします。自社の離職理由や勤務実態と照らし合わせ、優先順位を決める際の参考にしてください。
| 対策領域 | 主な課題 | 取り組み例 | 確認したい指標 |
| 勤務環境の見直し | 残業・休暇・業務負荷 | 勤務実態の可視化、業務分担や休暇取得ルールの見直し | 残業時間・休暇取得・離職理由などを継続確認 |
| 育成・フォロー | 若手の孤立・成長不安 | OJT、1on1、メンター、フォローアップ | 相談行動、定着状況、育成進捗を確認 |
| 管理職支援 | マネジメント負荷 | 管理職研修、相談先の整備、判断基準の共有 | 管理職の負担感、チーム状況、相談件数を確認 |
| 制度・評価 | 評価・処遇への不満 | 評価基準やキャリアパスの説明、フィードバックの改善 | 従業員の理解度・納得度・退職理由を確認 |
よくある離職の悩みと対策
離職対策では、目の前の問題だけでなくなぜ離職が起きるのか、その根本原因を理解することが大切です。一時しのぎの対策ではなく、長く効果を発揮する対策を立てましょう。ここでは、よくある離職の悩みと、その解決策をご紹介します。
若手がすぐに辞めてしまう
若手の早期離職には、入社前後の期待の違い、成長機会、人間関係、勤務条件など、複数の事情が関わる場合があります。原因を本人の意欲や能力だけに求めず、入社後の面談や職場の状況確認を通じて、受け入れる側の課題も整理しましょう。新人研修やメンター制度、定期的なフォロー面談は取り組みの選択肢ですが、これらだけで離職を防げるとは限りません。まずは、入社後に困りやすい場面と相談先を確認し、OJTや相談の仕組みが実際に機能しているかを点検します。
優秀な人ほど辞めていく
経験や実績のある従業員が退職する理由も一つではありません。キャリアの見通し、成長機会、仕事量、処遇、職場の人間関係などが関わる場合があります。まずは、個人が特定されない形で退職理由や職場の声を確認し、本人が希望するキャリア支援と、業務・評価制度の改善を分けて検討しましょう。面談や研修だけで退職を防げるとは限らないため、施策後も定着状況と現場の声を継続して確認することが大切です。
中堅層の離職でマネジメントできる人材がいない
中堅層の離職には、業務負担、役割の変化、キャリアの見通し、評価・処遇、人間関係など、さまざまな背景が考えられます。原因を本人のスキル不足と決めつけず、本人の声と職場の実態を分けて確認しましょう。管理職候補者の育成や相談体制の整備、業務分担の見直しなどを必要に応じて組み合わせ、実施後の変化を点検することが大切です。研修だけで離職防止や組織運営の安定が保証されるものではありません。
離職防止策を選定する際の注意点
離職防止策を選ぶ際は、場当たり的ではなく、根本原因を分析した体系的なアプローチが重要です。ただし、自社内での解決には限界があるため、外部の専門機関と連携することも効果的です。
また、施策は対象者のニーズに合わせて設計し、導入後は効果測定と継続的な改善を行うことで、投資対効果や職場の変化を確認しながら、施策を継続的に見直すことが重要です。
経営の最重要課題として離職防止に取り組もう
人材不足が深刻化する現代では、優秀な人材確保は企業の競争力を左右する最重要課題です。離職防止は、単なるコスト削減だけでなく、生産性向上や企業価値を高める中長期的な投資となります。
離職防止策を継続的に進めるには、経営層の関与と全社的な取り組みが重要です。従業員の声に耳を傾け、変化に対応した施策を導入し、効果測定と改善を繰り返すことで、持続的に働きやすい組織づくりを目指しやすくなります。
岩城成弘への講演・研修相談では、離職防止そのものを単独施策として扱うのではなく、管理職の関わり方、職場コミュニケーション、OJT、チームづくりなど、現場で改善できる行動に落とし込んで整理します。テーマや人数が未定の段階でも、課題整理からご相談いただけます。
離職防止に関するよくある質問(FAQ)
研修だけで離職率を下げられますか?
離職の背景は勤務条件、業務負荷、処遇、職場の関係性など多岐にわたります。研修だけで離職率の改善を保証することはできません。実態把握と組織的な対応を組み合わせる必要があります。
まず何から着手すればよいですか?
退職理由を個人が特定されない形で整理し、既存の相談体制、OJT、業務負荷などを確認します。原因を一つに決めつけず、担当部署や現場と優先順位を共有しましょう。
効果測定では何を確認しますか?
離職率だけでなく、相談しやすさ、育成の進捗、業務負荷の変化などを同じ条件で継続観察します。制度変更や採用状況による影響も分けて評価してください。

