
「職員によって利用者への言葉遣いが違う」
「接遇研修を実施しても、現場の対応が変わらない」
そうした悩みを持つ介護施設の管理者や研修担当者もいるのではないでしょうか。
介護の接遇は、丁寧な言葉を使うだけではありません。
利用者の意思や生活を尊重し、安心して支援を受けられるように関わることが大切です。
この記事では、介護における接遇の基本と具体例、職場全体に定着させるための方法を解説します。

監修者:岩城成弘(いわしろ あきひろ)
スターバックスコーヒーやウォルト・ディズニー・ジャパンでの豊富な実務経験を活かし、日本全国の企業や教育機関などで、ホスピタリティ研修を開催している。特に、ディズニー流の「おもてなし」を基軸にした、企業のブランド価値を高める研修が人気。実践的かつ成果につながる指導が、多くの企業から高い評価を受けている。
介護における接遇とは

介護における接遇とは、利用者や家族の気持ち・状況に配慮し、相手を尊重する姿勢を言葉や行動で示すことです。
マナーが挨拶や言葉遣いなどの基本的な作法を指すのに対し、接遇では、その作法を相手に合わせてどう実践するかが問われます。丁寧に説明していても、利用者が理解する前に介助を始めてしまえば、十分な配慮とはいえません。
日本介護福祉士会の倫理綱領でも、利用者本位の立場から自己決定を最大限尊重することが示されています。介護の接遇も、こうした考え方を日々の関わりに反映する必要があります。
介護現場での接遇では「丁寧に対応する」だけで終わらず、本人が希望や不安を伝えられたかを確認することが重要です。
介護の接遇で押さえたい5つの基本

接遇の基本として、挨拶・表情・身だしなみ・言葉遣い・態度の5つが挙げられます。基本に当てはめて対応するだけでなく、利用者にどう伝わるかを意識しましょう。
1.挨拶:相手に届く声かけをする
居室に入る際や介助を始める前には、挨拶や声かけを行います。初めて担当する場合は、名前と役割も伝えましょう。
大きな声で一律に話すのではなく、聞こえ方や周囲の状況に応じて声量や速さを調整します。返事を急かさず、相手の反応を待つことも大切です。
2.表情:状況に合った反応を示す
穏やかな表情は、話しかけやすい雰囲気づくりにつながります。ただし、常に笑顔でいればよいわけではありません。
利用者が不安やつらさを話しているときは、落ち着いた表情で耳を傾けます。表情だけでなく、声の調子やうなずきも相手の気持ちに合わせましょう。
3.身だしなみ:清潔さと安全性を整える
利用者様と接する際には、衣服や髪、爪などを清潔に保ち、業務に適した身だしなみを整えます。見た目の印象に加え、介助の妨げや相手の不快感につながらないかという視点も必要です。
施設の衛生管理ルールを踏まえ、装飾品や香りなども確認しましょう。
4.言葉遣い:親しさの中にも敬意を保つ
基本は、相手を一人の大人として尊重する言葉遣いです。「ちゃん」付けや子どもに向けるような話し方を、本人の希望を確かめずに使うことは避けましょう。
一方、難しい敬語を重ねればよいわけでもありません。わかりやすい言葉を選び、親しみやすさと馴れ馴れしさを区別することが重要です。
5.態度:相手の話と意思を大切にする
会話をする際には、話を遮ったり、本人の前で職員同士だけで話を進めたりせず、利用者が伝えようとしていることに注意を向けます。
着替えや排泄など、プライバシーに関わる場面では、周囲への配慮も欠かせません。言葉が丁寧でも、本人の意向を確認せず進めれば、一方的な対応になってしまいます。
場面別|介護の接遇を改善する具体例

接遇を見直す際は、言葉の置き換えと、その後の行動をセットで考えることが大切です。ここで紹介する具体例は、あくまで研修で検討するための例であり、実際には本人の状態や施設の方針に合わせて対応しましょう。
忙しいときに利用者から呼ばれた場合
利用者への声掛けについて「ちょっと待って」を「少々お待ちください」に変えるだけでは、利用者の困りごとは解消されません。
まず「どうされましたか」と用件を確認し、急いで対応する必要がないかを判断します。自分が対応できない場合は、別の職員へ引き継ぐなど、必要な支援につなげましょう。
見通しが立たないまま「すぐ来ます」と約束せず、誰が対応するのかを職員間で確認することも重要です。
利用者に介助を断られた場合
「決まっているのでお願いします」と押し切る前に、本人が何を気にしているのかを確かめます。
例えば「今は気が進まないのですね。気になることはありますか」と声をかけ、話せる範囲で理由を聞きます。理由を決めつけず、必要に応じて担当職員や専門職と相談しましょう。
対応の目的は説得して従ってもらうことではなく、本人の意思と安全を踏まえて支援方法を考えることです。
家族から質問や不安を伝えられた場合
「担当ではないのでわかりません」で終わらず、「担当者に確認してお伝えします」と次の対応につなげます。
その際、誰が確認し、どのような方法で返答するかを明確にします。不確かな情報をその場で答えず、回答できる範囲や個人情報の取り扱いも確認しましょう。
家族への配慮と同時に、利用者本人の希望やプライバシーを尊重する視点も欠かせません。
介護の接遇を職場に定着させる3つのポイント

接遇を個人の気遣いに任せると、忙しさや経験によって対応に差が生まれます。研修担当者は、学んだ内容を実践できる環境まで整えましょう。
1.「気づく・確かめる・つなぐ」で対応を整理する
現場で考えやすくするために、本記事では接遇の行動を「気づく・確かめる・つなぐ」の3段階で整理します。
- 気づく:利用者の表情や声、普段との違いに注意を向ける
- 確かめる:推測だけで動かず、本人の希望や困りごとを聞く
- つなぐ:必要な対応を行い、自分だけで難しい場合は担当者へ引き継ぐ
例えば「配慮が足りない」と注意するより、「希望は聞けたか」「次の担当者は決まったか」と確認したほうが、改善すべき行動が明確になります。
2.身近な場面で練習し、一つの行動を振り返る
研修では、現場で起きやすい場面を取り上げ、利用者役・職員役・観察役に分かれて練習します。共有する事例は、個人が特定されないよう配慮しましょう。
観察役は「優しかった」といった印象だけでなく、話を待てたか、希望を確認したかなど、実際の行動を伝えます。
研修後は、例えば「介助前に説明し、本人の反応を確認する」と一つの目標を決めます。短い振り返りの場を設け、できなかった場合も個人を責めず、忙しさや引き継ぎ方法などの背景を検討しましょう。
3.職員も安心して相談できる環境をつくる
利用者に丁寧に接するには、職員自身が困ったときに支援を求められることも重要です。管理者は相談先を明確にし、一人で抱え込ませない体制を整えましょう。
また、接遇を大切にすることは、あらゆる要求を受け入れることではありません。厚生労働省も、介護職員が安心して働けるよう、ハラスメント対策を含む職場環境の改善を求めています。職員の我慢を前提にせず、利用者への配慮と働く人の安全を両立させることが大切です。
介護の接遇を、思いやりが伝わる行動へ
介護の接遇は、挨拶や言葉遣いを整えるだけでなく、利用者の意思や尊厳を大切にする関わり方です。相手の希望を確かめ、必要な支援につなげるところまで意識しましょう。
職場に定着させるには、具体的な場面での練習と振り返り、職員が相談できる体制づくりが欠かせません。
岩城成弘の医療・介護・福祉向けホスピタリティ研修では、相手への配慮を現場で伝わる言葉や行動に変えることを重視しています。施設の課題に合わせた人材育成を検討している方は、医療・介護・福祉向けホスピタリティ研修をご覧ください。

