研修会場で、目を輝かせて話を聞く方に出会います。自分の仕事をもっと良くしたい。仲間やお客様のために何かを持ち帰りたい。その真剣さを前にすると、私は用意した話をうまく伝えるだけで講師の役割を果たしたとは思えません。
その人の問いを受け取り、明日の現場で試せる言葉を一緒に見つけたい。今回は「本気で学びに来た人を置き去りにしない」という、私自身が研修のたびに確かめていることを書きます。
研修に来た人の、その先の一日を想像する

研修中に深くうなずいた方が、翌日には忙しい職場へ戻ります。人手が足りないかもしれない。上司に話す時間がないかもしれない。会場では納得できた言葉も、いつ、誰に、どんな場面で使うのかが見えなければ、持ち帰りにくいものです。
「いい話だった」と言っていただけるのはありがたい。でも私は、そこで安心しないようにしています。研修を聞いた人の意欲を結果だけで測る前に、その人が置かれた一日を講師が想像できていたか。話の途中でも、参加者の表情や言葉から考え直します。
受講者の問いを、急いで正解に変えない

例えば「お客様に声をかけるのが難しい」という言葉。一見同じ悩みでも、話しかけるタイミングが分からない人と、声をかけた後の対応に不安がある人とでは、必要な対話が違います。私はまず「どんな場面でしたか」「そのとき何を大切にしたかったですか」と聞きたいのです。
講師が答えを急げば、会場は静かにまとまるかもしれません。けれども、参加者が抱えていた問いを講師の言葉で上書きしてしまうこともあります。話してもらった内容に、私の準備した説明が合わないと感じれば、順序や例えを変えます。分からないことは分かったふりをせず、確かめます。
その場で発言しない方も、必ずしも関心が薄いわけではありません。人前では話しにくいこともあります。考える時間を取り、書く、隣の人と話すなど、言葉を出しやすい入り口を用意することも講師の仕事だと思います。
帰る前に、自分の言葉で一歩を決める

研修の終わりに、立派な目標を一つ増やして帰ってほしいわけではありません。「明日の最初の場面で何をするか」を、自分の仕事に合わせて考えてほしいのです。忙しい時間帯に仲間へ一声かける。困った場面を終業時に一つ共有する。相手の話を最後まで聞いてから答える。その人が無理なく試せる大きさでよいと思います。
うまくいかなかった場合も、それは失敗の証明ではありません。何が難しかったかを次に話せるようにする。そのためには、研修を依頼した方や職場のリーダーにも、参加者が戻ってから話せる場を考えていただきたい。講師だけで完結させず、学んだ人の周囲にも目を向けます。
本気で学びに来た人に、本気で向き合う

本気で学びに来た人に応えるとは、強い言葉で気持ちを高めることだけではありません。相手の話を途中で決めつけず、分からないところを確かめ、持ち帰る一歩を一緒に探すことです。私自身、会場で出会う一つひとつの問いから学び続けています。
受講者が持つ使命感や、その仕事で守りたいものを聞くと、講師としての責任も強く感じます。研修後に「あのときの話が、今日のこの場面で役に立った」と思っていただけるように。目の前の人を置き去りにしない研修を続けていきます。
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